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まずはその原生林を見る。
雪がヤプをおおって歩きやすいうちにと、4月下旬にテントで山中に2泊しながら原生林中心部を横断した。
天然記念物のクマゲラ(日本最大のキツツキ〉生息地を通り、クマ・サル・カモシカなどの足跡や糞に喜び、イワナを釣り、野生ワサビを賞味しながらの3日間。
これほどの野生環境が、これほどの規模で日本に残されていたことは、ほとんど奇跡だ。
しかもその大部分が、樹齢数百年の巨木を含むブナばかりの原生林なのである。
これまでにニューギニアやボルネオの熱帯林から、亜寒帯気候の針葉樹林にいたるまで、世界のさまざまな原生林を見てきた。
しかしブナ林ほど美しい森林はないだろう。
まだ地表が残雪でおおわれているうちに一斉にもえだす新緑から、秋の鮮やかな黄葉にいたるまで、ブナの森を知る人たちはみんなその美しさをたたえる。
山好きの人々には、ここで改めて強調するまでもなくこれは周知のことであろう。
とはいうものの、すでにブナが滅びてしまった西日本の人々とか、道南のごく一部にしかブナがない北海道の人、それに山男ではあっても日本アルプスを主舞台に登ってきた人たちには、主として東北・新潟の日本海側山地にしか残されていなかったブナ原生林を、案外知らない例があると思う。
I氏は、ブナの原生林が伐られてゆく様子を「わが青春が伐られているようにつらい」と、どこかに書いていた。
(あるいは聞いたのかもしれない。
)だが、美しさ以上に重要なのは、ブナ林内部の生命の豊かさと保水能力の高さだ。
ブナが伐られたあとの国有林はほとんどスギの人工林にされているが、暗いスギ林の生命の貧弱さは、鳥獣や山菜・キノコなどどれをとってみてもブナ林の比ではない。
ブナを「命の森」とすれば、スギは「沈黙の森」といえよう。
そして縄文時代以来の東日本は、広大なこの「命の森に依存して栄えたので「ブナ帯文化」ともいわれている。
白神山地原生林は文化の母体となった自然の最後の残照である。
ブナ林の豊富な動植物の数や貴重な種の例をいちいちここに挙げる余赤石川源流、アプラッコの沢付近のブナ原生林。
この付近は比較的ゆるやかな斜面なのでクマゲラの穴が多い。
裕はないが、一言でいえばいま地球的諜題となっている遺伝子資源の貯蔵庫なのである。
絶滅にひんしているクマゲラはその全体の象徴にすぎない。
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